【はじめに】
微量栄養素であるビタミンやミネラルは、体の機能や調子を整えることや多量栄養素(炭水化物、たんぱく質、脂質)の消化吸収をサポートするなど重要な役割を担っています。
微量栄養素は、体内で必要量を生成することができないため、食事などによる摂取が不可欠となります。
ミネラルの代表格とも言えるマグネシウムの摂取不足によって虚血性心疾患、高血圧や糖尿病、そして生活習慣病などになりやすいと言われています。
まさに、マグネシウム成分は動脈硬化など様々な疾病·病態と密接に関連しているのです。
そして、潰瘍性大腸炎とは、大腸の粘膜に慢性的な炎症が生じ、“びらん”や“潰瘍”といった病変が形成される病気のことです。
発症すると腹痛、下痢、血便(便に血液が混ざる)などの症状が現れ、重症な場合は発熱、体重減少、貧血など全身にさまざまな症状が引き起こされます。
日本では難病の1つに指定されており、発症頻度は10万人に100人程度とされています。
また、発症に男女差はなく、20歳代頃の比較的若い世代から高齢者まで幅広い年代で発症する可能性があるのも特徴の1つです。
今回は、炎症性腸疾患にひとつである潰瘍性大腸炎の患者様がマグネシウムを摂取する意義について説明していきます。
【第1章】潰瘍性大腸炎の患者様がマグネシウムを摂取する重要性とは?
微量栄養素が慢性的に欠乏しやすい炎症性腸疾患の患者さんは、入院期間の長期化や手術からの回復に時間がかかることなどが明らかにされていますので、ミネラルの一つであるマグネシウムが不足しないように日常的に注意する必要があります1)。
潰瘍性大腸炎と類似して捉えられている炎症性腸疾患の1種であるクローン病などの小腸粘膜異常をきたす疾患では、吸収不良症候群を呈することも往々にして存在しており、同時にマグネシウムの吸収障害も併発すると言われています。
通常では、腸管叢における吸収面積率の減少によってマグネシウムの吸収不良がみられますが、未吸収の脂肪酸とマグネシウムが結合して糞便中に排泄される過程でもマグネシウムの吸収不良が出現すると考えられます。
潰瘍性大腸炎の症状の現れ方はさまざまであり、よくなったり悪くなったりを繰り返すパターンもあれば、症状がずっと続くパターン、急激に重度な症状が現れるパターンなどもあります。
通常では、下痢(便が軟らかくなって、回数が増えること)や血便が認められ、痙攣性または持続的な腹痛を伴うこともあります。
重症になると、発熱、体重減少、貧血などの全身の症状が起こります。
このように潰瘍性大腸炎の活動期では、症状がひどくなるために十分に食事が摂取できないこと、あるいは体内への吸収が炎症によって阻害されることなどによって健常時よりもマグネシウムが体内で不足しやすくなります。
潰瘍性大腸炎はある特定の原因によって引き起こされるというわけではなく、生まれつきの遺伝性や毎日の食生活、そして腸内細菌を含む様々な免疫系統の異常などあらゆる要因が重複して発症すると考えられています。
こうしたことからも、潰瘍性大腸炎の患者様は普段からマグネシウム摂取量が少なくなり過ぎないように意識して、前向きにマグネシウムを摂取することに意義があると考えられます。
【第2章】潰瘍性大腸炎の患者様がマグネシウムを摂取する手段とは?
潰瘍性大腸炎における治療の主体は大腸の炎症を鎮めたり、過剰な免疫のはたらきを抑制したりする薬による薬物療法です。
薬物療法で十分な効果が得られない場合などは大腸を全て摘出する手術を行うことも少なくありません。
潰瘍性大腸炎と診断された場合は、症状や重症度に応じて様々な治療が行われます。
薬物療法として使用される薬は、大腸に生じた炎症を抑えたり、過剰に作用する免疫のはたらきを抑えたりする5-アミノサリチル酸製剤やステロイド、あるいは免疫抑制剤や生物学的製剤などが挙げられます。
潰瘍性大腸炎は再発を繰り返しやすい特徴を有しているため、症状がよくなった後も薬物療法の継続が必要なケースも少なくありません。
基本的には、腸に炎症が起きている部位の刺激を避けるため、絶飲食をしてマグネシウムなどミネラル要素を含む点滴による栄養管理が行なわれることも多いです。
マグネシウムは潰瘍性大腸炎を抱えた人の体内にも含まれている重要なミネラル成分です。
日本人で推奨されているマグネシウムの1日摂取量は30~49歳の男性でだいたい370mgと言われています。
厚生労働省が実施した「平成20年国民健康·栄養調査」によると、マグネシウムの平均摂取量は30~49歳の男性では243mgとなっております。
健常人でも平均すると120mg以上のマグネシウムが毎日不足していると推測されていますので、潰瘍性大腸炎の患者さんにおいては下痢などの症状から更にマグネシウムなどのミネラルが病状の進行に伴って喪失している可能性が高いと思われます。
一般的には、豆類、緑葉野菜、バナナ、全粒製品などに多くマグネシウムは含有されております。
ビタミンやミネラルは体内で必要量を合成することができないため、食事からの摂取が不足すると様々な症状が現れます。
マグネシウム成分が不足すると、骨代謝障害、筋肉痙攣、そして倦怠感などの症状が自覚されることが多く認められますが、見た目では判断しにくいものも多いので注意が必要です。
それゆえに、潰瘍性大腸炎の患者様では普段からマグネシウムを多く含む魚や果物、野菜、豆類、海藻などをよく食べることが腹部症状以外の合併症を予防するために望ましいと考えられます。
また、近年ではマグネシウムサプリメントが広く普及しており、酸化マグネシウムやクエン酸マグネシウム、塩化マグネシウムなど色々な形で容易に入手できますので気軽に摂取することが出来る有用なツールとして考えられています。
【まとめ(おわりに)】
潰瘍性大腸炎は大腸の粘膜(最も内側の層)に炎症性潰瘍ができる大腸の炎症性疾患 です。
特徴的な症状としては、下血を伴うまたは伴わない下痢とよく起こる腹痛です。
病変は直腸から連続的に、そして上行性(口側)に広がる性質があり、最大で直腸から結腸全体に拡がります。
潰瘍性大腸炎は現在のところ明確な発症メカニズムが分かっていないため、効果のある予防方法も確立していないのが現状です。
しかし、潰瘍性大腸炎は、腸内環境の悪化なども原因の1つであると考えられています。
その発症を予防するにはバランスよく規則正しい食生活を心がけるようにしましょう。
また、潰瘍性大腸炎の患者様において不足したビタミン·ミネラルは、静脈内注入や経口サプリメントが使われることが一般的とされています。
その後、腹部症状の回復とともに食事内容を改善していき、不足しがちなミネラルの摂取を徐々に増やしていきましょう。
潰瘍性大腸炎を持病として抱えている人にとって病気に伴う症状と上手に付き合うためのひとつの選択肢として、食事やサプリメントなどを使用することによって効率的にマグネシウムを摂取して健康的で快適な生活を実践しましょう。
今回の情報が少しでも参考になれば幸いです。
引用文献
- Weisshof R, Chermesh I. Micronutrient deficiencies in inflammatory bowel disease. Curr Opin Clin Nutr Metab Care. 18(6):576-581, 2015.
DOI https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26418823/
著者について
■専門分野
救急全般、外科一般、心臓血管外科、総合診療領域
■プロフィール
平成19年に大阪市立大学医学部医学科を卒業後に初期臨床研修を2年間修了後、平成21年より大阪急性期総合医療センターで外科後期臨床研修、平成22年より大阪労災病院で心臓血管外科後期臨床研修、平成24年より国立病院機構大阪医療センターにて心臓血管外科医員として研鑽、平成25年より大阪大学医学部附属病院心臓血管外科非常勤医師、平成26年より救急病院で日々修練しております。
■メッセージ
私はこれまで消化器外科や心臓血管外科を研鑽して参り、現在は救急医学診療を中心に地域医療に貢献しております。日々の診療のみならず学会発表や論文執筆等の学術活動も積極的に行っております。その他、学校で救命講習会や「チームメディカル:最前線の医療現場から学ぶ」をテーマに講演しました。以前にはテレビ大阪「やさしいニュース」で熱中症の症状と予防法を丁寧に解説しました。大阪マラソンでは、大阪府医師会派遣医師として救護活動を行いました。