【はじめに】
妊娠中に妊娠悪阻症状がひどく、妊婦さんが全く食事を摂取できない、あるいは水も飲めないという場合や体重減少が著しくなり体力消耗することが時に見受けられます。
そのような場合に知っておくと望ましい情報として、マグネシウムの十分な摂取が血清マグネシウム値の低下を防ぎ、妊婦さんが悪阻にならないように予防する効果があるということです。
私たちのからだの中に確かに存在して色々な生命活動をサポートしてくれているミネラルであり、現代人の心身の健康のために欠かせないと言われているのが、「マグネシウム」です。
普段からミネラル摂取を格段に意識している妊婦さんは皆目ほとんどいないと考えられており、特に現在のところでは日本人のマグネシウム平均摂取量も減少していますが、妊娠初期の悪阻を予防するためにマグネシウムは非常に重要な要素であると考えられています。
マグネシウムは昔ながらの日本食では豊富に摂取できるものが多いとされていますが、その一方で複数のミネラルやビタミンを同時に補うことができるサプリメントによってマグネシウム成分を摂取する人も最近では散見されます。
今回は、妊娠悪阻にならないためにマグネシウムのサプリメントを摂取する重要性などについて説明します。
【第1章】妊娠悪阻になる原因とは?
妊娠悪阻とは、妊娠中に頻回な嘔吐と著しい食思不振が生じることで脱水状態や栄養不足に伴う代謝障害を引き起こす病気のことを意味します。
いわゆる通常の「つわり症状」では、妊娠を契機に急激な女性ホルモンバランスの変化などが誘因となって特に妊娠初期の5~8週頃に自覚されることが多い徴候ですが、ほとんどは妊娠15週前後には自然と改善していくことが多いと言われています。
一方で、重篤なつわりとも捉えられている「妊娠悪阻」は妊婦の約1%程度に発症し、点滴投与など適切な治療を受けないと脳や肝臓などの臓器に障害を引き起こして胎児へも悪影響を及ぼすことも往々にして認められます。
現代医学をもってしても、どのようなメカニズムや原因で妊娠悪阻症状が引き起こされるのかは明確には解明されていません。
一説によると、妊娠を契機として女性ホルモンの一種であるエストロゲンや、妊娠が確立して受精卵が着床することによって分泌されるヒト絨毛性ゴナドトロピンと呼ばれるホルモンの分泌量が急激に上昇することが本疾患を起こす原因のひとつと伝えられています。
また、別視点から統計学的には初めての妊娠経験や多胎妊娠、あるいは母体自体の肥満傾向や摂食障害の既往などが妊娠悪阻になりやすいリスク要因として捉えられています。
さらには、妊娠や分娩することへの強い不安や心理的葛藤などの精神的な要素も関与しているのみならず、遺伝的な要因も無視できずに母親や姉妹などの親族が妊娠悪阻になったことがあるケースでは自分自身も発症する可能性が高いとも考えられています。
【第2章】妊娠悪阻にならないためにマグネシウムサプリメントを摂取する重要性
マグネシウムは胎児・胎盤の成長および子宮筋収縮・抑制に必要な栄養素であると考えられています。
また、マグネシウムは中枢神経に優先的に取り込まれ、赤ちゃんがお腹の中で発育する際にも必要であると思われ、このマグネシウム物質が血液中で不足することによって悪阻が発生するのではないかと考えている学者も存在します。
妊娠時の特に初期段階で襲ってくる悪阻症状(いわゆる、つわり)の時期に白いご飯がまったく食べられなくなる妊婦さんがいます1)。
その背景としては、妊娠イベントが味覚神経系に与える影響そのものだけでなくマグネシウムが不足している妊婦さんほど味覚が低下する事が関与していると考えられています。
妊娠初期には、通常であればマグネシウムが細胞内に大量に取り込まれるために、それに反応して血清マグネシウム値が低下する傾向があります。
これと同時に妊娠中期から末期にかけて、空腹時の血糖値が低下しインスリンの基礎分泌量が減少することによって自律神経が変調して副交感神経の活性化が優位となります。
その副交感神経が優位になればなるほど、悪阻症状が強くなることがわかっています。
また、マグネシウムは細胞分裂を行うのにも必要なミネラル成分であると言われます。
一般的に、マグネシウムは350種類以上の酵素の働く調整機構に関与しています。
さらには、妊娠悪阻の時のみならず蛋白尿などを呈する妊娠高血圧症候群の方でもマグネシウムが相対的に不足している傾向があります。
マグネシウムは1926年以来から生体にとって必須元素であることが知られています2)。
厚生労働省が制定している「日本人の食事摂取基準」では、マグネシウムの推奨摂取量は1日あたり成人男性でおよそ340~370mg、また成人女性では概ね270~290mgとなっています。
マグネシウムは種実類(ごまやアーモンド、カシューナッツ、ヒマワリの種など)、海藻類(あおさや青のり、わかめ、とろろ昆布など)、そして豆類・大豆加工食品(豆腐や納豆、油揚げ、味噌、きなこなど)に多く含有されています。
原則として、ミネラルそのものは基本的には体内で十分な量を作ることができませんから、食品などから摂取する必要があります。
その一方、食事などで十分な量を取れない場合には市販で販売されて容易に手に入るサプリメントを活用する方法もあります。
通常では、サプリメントの容器には摂取量程度しか記載されていないことが多いため、飲むタイミングはいつが望ましいのか迷ってしまう妊婦さんも多いです。
基本的には、いつどのようにサプリメントを飲んでもいいのですが、まずは食後に1日の目安量を分けて飲んでみることをお勧めします。
妊娠悪阻を予防するためには、普段から意識して食べ物やサプリメントなどからマグネシウム成分を摂取する必要性があると言えるでしょう。
【まとめ(おわりに)】
妊娠悪阻とは、一般的に妊娠初期に頻回な吐き気や嘔吐が生じることで体内から水分や電解質が失われると同時に、妊婦さんにとって生体の恒常性を維持するために必要なエネルギーや栄養素を十分に補うことができなくなる病気を指します。
妊娠中の栄養補給の有無は胎児の発育に大きな影響を与えると考えられており、母体内で十分なミネラル成分の栄養をもらって産まれてきた場合とそうでないケースにおいては、身体的ならびに精神的に一定の差があることが知られています。
妊娠悪阻を根本的に治す治療法はありませんが、失われた水分や電解質、あるいはマグネシウムなどのミネラル成分を補給するように心がけましょうね。
特に、マグネシウムは、妊娠中に必要量が通常レベルよりも増加する傾向がありますので、意識して摂りたいミネラルの代表格です。
もし、妊婦さんがマグネシウムを多く含んだ食品を取り過ぎたとしても、小腸などで吸収量が調節されて、尿や汗と共に排泄される作用が働くために通常の食事においては過剰症になることはほとんどありません。
妊娠期には辛いこともたくさんあるでしょうから、もし周りに妊娠悪阻に関して悩みを抱えている妊婦さんがいたら、十分な水分量やバランスの良い食事を規則正しくしっかり食べて、マグネシウムなどのミネラル成分の栄養を摂取するように教えてあげてください。
日々の食事内容やサプリメント栄養をうまく活用してマグネシウムの摂取方法を工夫することによって妊娠悪阻にならないように実り多い有意義な生活を送りましょう。
今回の情報が少しでも参考になれば幸いです。
引用文献
- 恩田威一: 悪阻の時に白いご飯が食べられないのは何故?.相模原市医師会報 58:340-342, 2021.
DOI http://mag21.jp/contents/630
- 千葉百子、篠原厚子、松川岳久:マグネシウムと健康-栄養、医薬品、環境の観点から-. Biomedical Research on Trace Elements. 2011 年 22 巻 4 号 p. 59-65.
DOI https://doi.org/10.11299/brte.22.59
著者について
■専門分野
救急全般、外科一般、心臓血管外科、総合診療領域
■プロフィール
平成19年に大阪市立大学医学部医学科を卒業後に初期臨床研修を2年間修了後、平成21年より大阪急性期総合医療センターで外科後期臨床研修、平成22年より大阪労災病院で心臓血管外科後期臨床研修、平成24年より国立病院機構大阪医療センターにて心臓血管外科医員として研鑽、平成25年より大阪大学医学部附属病院心臓血管外科非常勤医師、平成26年より救急病院で日々修練しております。
■メッセージ
私はこれまで消化器外科や心臓血管外科を研鑽して参り、現在は救急医学診療を中心に地域医療に貢献しております。日々の診療のみならず学会発表や論文執筆等の学術活動も積極的に行っております。その他、学校で救命講習会や「チームメディカル:最前線の医療現場から学ぶ」をテーマに講演しました。以前にはテレビ大阪「やさしいニュース」で熱中症の症状と予防法を丁寧に解説しました。大阪マラソンでは、大阪府医師会派遣医師として救護活動を行いました。